地方自治体の会計事務入門

自治体職員向けに会計事務の制度をまとめました。

専決と委任

 地方公共団体の長や会計管理者等、会計事務の権限を持つ者が全ての事務を直接処理することは、会計事務の量を鑑みると現実的に不可能です。他の事務と同様、権限が部長や課長、出先機関の長等に下され、実際の事務が行われています。

 権限移譲の方法に専決と委任がありますが、その内容は次の通りです。

1 専決
 権限の委譲を受けた者が常に決裁を行いますが、地方公共団体の長等、権限を持つ者の名称で契約や補助金の交付決定等の事務が行われます。
例:○○円以下の物品購入は所管の課長が決裁する。契約書の代表者は地方公共団体の長。
2 委任
 権限が委譲された者が常に決裁をするという点は専決と同じですが、執行は権限が委譲された者の名称で行います。例:○○円以下の物品購入は所管の出先機関の長が決裁する。契約書の代表者は出先機関の長。

 筆者の印象ですが、本庁の場合は専決が用いられ、出先機関の場合は委任が用いられることが多いと感じます。

予算から決算までの大まかな流れ

 予算から決算までの大まかな流れは、次の通りです。

①予算調製→②予算案議決→③予算執行→④決算調製→⑤監査委員の決算審査→⑥決算認定の議決→⑦決算の要領の公表

 それぞれについて、説明します。詳しくは予算や決算の記事で説明しますので、今回は概要です。

①予算調製
 予算案は地方自治体の長が調整します*1地方自治法第百四十九条第1項第二号)。実務において、所管の部署が見積もり(税収を税の部門、事業に要する経費を事業課等)、それを財政所管の部署の査定を経て取りまとめることになります。
 調整した予算案は、都道府県及び政令指定都市の場合は年度開始前30日、政令指定都市以外の都市及び町村の場合は年度開始前20日以内に、地方自治体の長から議会に提出しなければなりません。

②予算案議決
 地方自治体の長から提出された議案は、議会の議決(地方自治法第九十六条第1項第二号)と当年度4月1日の到来を経て、効力を発します*2。予算案の議会での審議の方法は自治体によって異なりますが、特別委員会である予算委員会を設置して行うことが多いようです。

③予算執行
 予算執行とは予算の内容を実行することで、収入や支出の事務が主なものです。地方公営企業以外は地方公共団体の長が権限を有しますが(地方自治法第百四十九条第1項第2号)、地方公営企業は管理者が有します(地方公営企業法施行令第十八条第1項)。
 政策的に重要な事項や高額の場合を除き*3、実務上は、専決や委任により権限が委譲されたものの決裁で執行しています*4

④決算調製
 地方公営企業以外は、出納整理期間後3か月以内に(翌年度の8月31日まで。地方自治法第二百三十三条第1項)、会計管理者が決算を調製し地方自治体の長に提出します(地方自治法第百七十条第2項第七号)。
 地方公営企業は、事業年度終了後2か月以内に(翌年度の5月31日まで。地方公営企業法第三十条第1項)、公営企業管理者が決算を調整し地方自治体の長に提出します(地方公営企業法第九条第1項第五号)。
 地方公共団体の長は、会計管理者及び公営企業管理者から受け取った決算書等を監査委員の審査に付すため(地方自治法第二百三十三条第3項)、監査委員に提出します(地方自治法第百四十九条第1項第四号)。

⑤監査委員の決算審査
 決算書等を監査委員では、予算執行が適切か、適法かといった観点から審査を行い、意見を付けて地方自治体の長に返します。

⑥決算認定の議決
 地方公共団体の長は、決算書等に監査委員の決算審査の意見と主要な施策の成果を説明する書類(地方公共団体の長が作成)を付け(地方自治法第二百三十三条第3項及び同条第5項)、議会の認定に付します(地方自治法第百四十九条第1項第四号)。
 議会ではそれを審議し、認定に付します(地方自治法第九十六条第1項第三号)。審議の方法や観点は地方自治体によって様々ですが、予算と同様、特別委員会を設置して行うことが多く、財務的な観点からだけではなく政策的に妥当か否かという観点からも行われることが多いようです。

⑦決算の要領の公表
 地方公共団体の長は、議会の認定に付した決算の要領を住民に公表しなければなりません(地方自治法第二百三十三第6項)。地方公共団体の公報に掲載したり、掲示板に掲載するなどの方法が取られています。

*1:地方公営企業教育委員会であっても予算案の調整を行うのは地方自治体の長ですが、地方公営企業の場合は地方公営企業の管理者が作成する 原案に基づいて調整する必要があり(地方公営企業法第二十四条第2項)、教育委員会の場合は教育委員会の意見を聞かなければなりません(地方教育行政の組織及び運営に関する法律第二十九条第1項)。

*2: 支出の原因となる契約は予算が効力を発してから締結できますが、施設管理の委託や警備等、4月1日が契約期間の開始となる契約の場合、入札や見積もり合わせに要する時間を考慮すると、年度到来を待っていては事業の開始に契約事務が間に合わないという問題が生じます。4月1日までに、つまり予算が有効になるまでにどこまで手続きを進めてよいのか、法令の解釈や実務上の取り扱いは地方自治体により異なりますので、該当する事務を担当する場合はご注意ください。

*3:どのような場合に権限が委譲されているかは、各自治体の規則で定められています。また、重要な財産の処分等、議会の議決が必要な場合もあります。

*4:専決及び委任については、こちらをご覧ください。

専決と委任 - 地方自治体の会計事務入門

一般会計と特別会計、公営企業会計

 地方自治体の会計は、一般会計、特別会計及び公営企業会計の3つに分けられます。 

1 一般会計と特別会計
 一般会計は、特別会計と公営企業会計に属する事業以外の事業、全てを経理するもので、議会、福祉、医療、環境、農林水産、労働、産業、土木、警察、消防、教育等、自治体の一般的な業務全般を扱います。
 特別会計は、自治体が事業を行う場合等、特定の歳入を特定の歳出に充て、一般会計と区分して経理する必要がある場合に、法律*1または条令で設置されるものです(地方自治法第二百九条第2項)。例えば、国民健康保険事業*2介護保険事業*3公営住宅の管理*4簡易水道*5等です。
 一般会計と特別会計は、現金の収入、支出があった時点で金額を計上する現金主義の考えに基づいて経理します。

2 公営企業会計
 公営企業会計は、株式会社等と同様、発生主義と複式簿記を採用して経理するもので、地方公営企業法で定められています。対象となる事業は次の通りです(地方公営企業法第二条各項)。
(1) 水道事業(簡易水道事業を除く。)
(2) 工業用水道事業
(3) 軌道事業*6
(4) 自動車運送事業
(5) 鉄道事業
(6) 電気事業
(7) ガス事業
(8) 病院事業
(9) その他、政令で定める基準に従い条例で定めた事業
 なお、地方公営企業法では、財務に関する規定だけではなく組織等に関する規定もありますが、(1)から(7)の事業には全規程が適用され、(8)は財務に関する規定が必ず適用され、財務以外の規定の適用は任意です。また、(9)に公営企業法の全部または一部を適用するかは、条例で定めます。

*1:地方自治法では条例で設けることができることしか規定されていませんが、法律は条令よりも上位の法規であるため、法律でお設けることができます。

*2:例:保険料を国民健康保険事業の財源とする。

*3:例:保険料を介護保険事業の財源とする。

*4:例:家賃を公営住宅の整備や維持に充てる。

*5:例:水道使用料を設備の整備や維持に充てる。

*6:路面電車のこと。

歳入と歳出

 ある会計年度の支出のことを「歳出」と言います。また、ある会計年度の収入のことを「歳入」と言います。

 原則、歳出は同じ会計年度の歳入を財源としなければなりません(地方自治法第二百八条第二項)。このことを「会計年度独立の原則」と言い、例えば、令和2年度の歳出予算で物を買ったり補助金を支出する場合、同じ令和2年度の歳入予算として計上した税金などの収入を充てなければならないということになります。

 何が会計年度独立の原則の例外か実務上意識することは少ないですが、次のものが挙げられます。
・過年度収入
 前年度以前の予算の歳入を出納整理期間後に収入するもの。税や使用料、手数料、補助金の返還金等の納付が遅れた場合等。
・過年度支出
 前年度以前の予算の歳出を出納整理期間後に支出するもの。補助金の精算により還付をしなければならないが、出納整理期間中に支出できなかった場合等。
・予算の繰越し
 繰越明許費(地方自治法第二百十三条各項)と事故繰越(地方自治法第二百二十条第3項)に分けられます。
 繰越明許費とは、自治体の予算を構成するもので、予算成立後の理由により年度内に支出できない場合に、議会の議決を経て翌年度に繰り越して支出します。
 事故繰越とは、災害や事故等の予期せぬ事由により年度内に支出できない場合に、翌年度へ繰り越して支出します。繰越明許費と異なり議会の議決を要しませんが、支出負担行為*1
 予算を繰り越した際は、翌年度5月31日までに繰越計算書を作成して、次の議会までに議会に報告しなければなりません(地方自治法施行令第百四十六第2項及び第百五十条第3項)

*1:普通地方公共団体の支出の原因となるべき契約その他の行為」と規定されていますが、ここでは便宜上、契約締結や補助金の交付決定と思ってください。

会計年度と出納整理期間

 地方自治体の活動は特定の期間に限られず、合併等がない限りは継続していくものですが、その財政状況を明らかにするため会計年度が設けられています。

 1 会計年度について

 会計年度は、毎年4月1日に始まり、翌年の3月31日に終了します(地方自治法第二百八条第一項)。予算と決算は、○年度予算、○年度決算というように会計年度を基準に整理され、収入や支出等の財務活動は必ずいずれかの年度に属します。*1

 2 出納整理期間について

 ある会計年度の翌年度の4月から5月に、収入と支出に伴う現金の出入り*2を整理する「出納整理期間」が設けられています(地方自治法二百三十五条の五)。例えば、令和元年度予算の場合、会計年度は令和元年4月1日から令和2年3月31日までで、出納整理期間は令和2年4月1日から5月31日までです。

 出納整理期間はあくまでも出納を整理する期間であるため、出納整理期間中に新たな支出や収入をすることはできません。例を挙げて説明します。収入の場合、令和元年度予算の税金の課税を令和2年3月までに行い、それに関する現金を令和2年4月または5月に受け取ることは可能ですが、令和2年4月以降に課税することはできません。支出の場合、令和元年度3月までに物品購入の契約を結んで納品を受け、令和2年4月または5月に代金を支払うことは可能ですが、契約締結や納品が令和2年4月以降であれば誤った処理になります。

*1:収入と支出の年度区分は、それぞれの記事で別に解説します。

*2:現金の出入りのことを「現金の出納」と言います。収入や支出を行う権限は知事や市町村長にありますが、現金や物品の出納を行う権限は会計管理者にあります。

地方公共団体?自治体?

 地方公共団体自治体という言葉がありますが、どちらも同じものだと理解して差し支えないと筆者は考えます。地方公共団体は、憲法地方自治法等の法令で使われる正式名称で、自治体は一般的に使われる名称という違いがあります。

 当ブログでは法令に関する場合を除き、一般的に使用される自治体という言葉を使用します。

 なお、地方公共団体は次の区分に分けられます。

1 普通地方公共団体地方自治法第一条の二)
(1) 都道府県 
 広域にわたるもの、市町村の連絡調整、規模または性質により一般の市町村が処理するのが適当でないものを業務として行います。広域自治体ということもあります。
(2) 市町村
 地方公共団体の業務の内、都道府県が行うものを除き実施します。都道府県の業務の内、「規模または性質により一般の市町村が処理するのが適当でないもの」については、規模や能力に応じて行う場合もあります(政令市や中核市等)。基礎自治体ということもあります。

2 特別地方公共団体地方自治法第一条の三)
(1) 特別区
 東京23区が該当します。市町村と同じ役目を担いますが、特別地方公共団体です。
(2) 地方公共団体の組合
 主なものは次のとおりです。
・一部事務組合
 地方公共団体の事務の一部を共同処理するための組合で、消防や上下水道、休日診療所、ごみ処理場などの事務を行うものがあります。
・広域連合
 広域的な事務を共同で行う組合で、後期高齢者医療保険の運営や税の徴収を行うものがあります。
(3) 財産区
 合併前の市町村が管理する財産や公の施設を合併後の市町村に引き継がず管理する地方公共団体です。

自治体の財務・会計の大本(本題に入る前に)

 憲法は、国の機関だけではなく自治体の機関についても、第八章地方自治で規定しています。その内の憲法第九十二条の「地方公共団体の組織及び運営に関する事項は、地方自治の本旨*1に基いて、法律でこれを定める。」という規定を受け、地方自治法自治体の組織、運営に関する事項の大綱、つまり大枠となるものを定めています。

 財務・会計の事務はその「組織、運営に関する事項」に含まれ、地方自治法第九章財務の各規程やそれらに関連する地方自治法施行令、地方自治施行規則*2で定められている内容が、財務・会計事務の根幹といえます。

 実務上は、事務処理やシステム操作のマニュアル、規則や要綱などの内部規定を参照することが多いと思いますが、財務・会計の制度を理解していく上で、たとえアウトラインであったとしても地方自治法等の関連規定への理解は欠かせません。

*1:地方自治の本旨」とは、住民の意思に基づくという「住民自治」と国とは別の団体が行うという「団体自治」の二つであると言われています。

*2:施行令は内閣府が制定する政令で、施行規則は総務大臣が制定する省令です。法学のブログでないため政令と省令の説明は省きますが、どちらも、地方自治法よりも細かい内容を定めているものとご理解ください。